計算社会科学

計算社会科学(Computational Social Science)とは、簡潔にいうと、「人間・社会(問題意識) × 計算・計量(数理と技術)」が可能にする新しい学際科学です。次のような方法論を最大限に活用して、人間行動や社会現象を測定・モデル化し、既存の社会科学を定量的に補強するのみならず、社会科学の射程を方法論の面から大幅に拡張しようとしています。

  • 現実世界のプロキシーとしてのビッグデータ
  • 観察・実験の場としてのWeb
  • 複雑系を扱う数理手法と情報技術

ではなぜ今、計算社会科学なのでしょうか?その背景として、ウェブのソーシャル化やIoT (Internet of Things) の登場により行動の電子的痕跡が高密度かつ継続的に蓄積されるようになったことや、ビッグデータを扱う数理・情報技術の発達によって、これまでは不可能だったような「社会現象の要素」の定量化が可能になったことがあげられます。さらに、情報化社会において人間行動や社会そのものが複雑化し、新しい理解の仕方が求められているという事情もあります。

計算社会科学はこれまでの社会科学とどう違うのでしょうか?この答えは研究者によってまちまちです。計算社会科学は一時的なムーブメントで社会学に早晩吸収されると考えている人もいますし、複雑系科学の一部だと考えている人もいます。あるいは、計算社会科学の効用に着目して、マーケティングや社会情報基盤、制度設計やジャーナリズムなどへの多様な応用を考えている人もいます。1つだけ確かなことは、計算社会科学という考え方(あるいは言葉の響き)が多くの人々を惹きつけているということです。

生まれたてで、発展の真っただ中にある計算社会科学を定義するのは時期尚早ですし、現時点で定義にこだわるのはあまり意味がないと思います。今はむしろ、計算社会科学という方法駆動で、新しい知見を積み重ねる段階にあります。つまり、「計算社会科学とは何か」より「計算社会科学で何ができるか」が大事だと思います。

かつて、ティコ・ブラーエが黙々と続けた緻密で大量の天体観測記録が、後にケプラーの法則の発見につながりました。「望遠鏡」を手に入れた社会科学が、今まさに真の科学へと昇華するチャンスが訪れているのです。

(情報が少し古いですがこちらもご覧ください)

文責:笹原和俊